ふるさと古寺巡礼 ―印旛・香取、古寺名刹の世界―

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釈迦堂「遷座の朝」

「遷座の朝」

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6×9判 100㎜F2.8 KRP
その他不明

撮影ノート

組合役員を辞した私は、非番日には晴れてさえいれば成田山に通い、撮影するという日々を過ごしていました。ある公休の朝、一通りの撮影を終えて釈迦堂の前に来てみると、日の当たるはずのないお釈迦様の顔に光が差しているではありませんか。それは何かに反射した朝日が、お堂の中を照らしているのでした。私は急いで測光ポイントを決め、4×5では間に合わないと思い、カンボXLを構えました。

いざ、撮影しようとすると、その光は既にお顔から外れてしまっています。それでも一枚はと思い、シャッターを切りました。そして、これは4×5で撮らねばと考え、公休で晴れる日を待って撮り直したのですが、出来栄えは、最初のものが遙かに美しいのでした。

平成13年3月、私は成田でははじめての写真展、「成田山新勝寺 その美と世界」を開き、釈迦堂は、この写真を選んで展示しました。すると、見に来てくださったお坊様が「いつ撮影したのか」と訪ねます。見慣れた釈迦堂と違うと言うのです。やがて堂内に詰めている俗人の方も来てくださって、次のような話を聞かせてくれました。

「釈迦堂では生花を飾ることはないし、太鼓の位置など、普段の姿と違います。お釈迦様の前に小さな仏像が見えていますが、これはお堂の背面にいらした大日如来様です。何年か前にお移りいただくことになりましたが、仏様は、やたらに動かせないので、その前にお祀りした日の写真でしょう。このような内部の姿は、釈迦堂が建てられて以来、この一日しかありません。私は以前、他のお寺でご開帳の秘仏を、そっと撮影したところ写っていない、という経験をしたことがあります。この写真の場合は、仏様が撮らせて下さったのでしょう」